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名古屋高等裁判所 昭和39年(け)6号 判決

被告人 木野村良男

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する業務上過失致死被告事件につき、岐阜地方裁判所が昭和三九年九月二四日なした有罪判決に対する被告人からの控訴の申立に対し、名古屋高等裁判所が同年一一月三〇日控訴棄却の決定をなしたところ、被告人から異議の申立があつたので、当裁判所は、左のとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

理由

本件異議の要旨は、被告人は名古屋高等裁判所から「弁護人選任に関する通知書」を受け取つたが、その文面は、弁護人につき、昭和三九年一一月九日までに国選か私選かの申出をなせ、申出なきときは国選にするとの趣旨であつたので、申出しなければ当然国選によつて弁護人をつけて貰えるものと考えて之が届出をなさなかつたところ、突然控訴棄却の決定を受けたが、右決定は納得できないから異議を申し立てると云うのである。

案ずるに、本件業務上過失致死被告事件は必要的弁護事件でなく、任意的弁護事件であるから、裁判所は被告人が弁護人を選任しない場合に、義務的に弁護人を選任する必要はないことは明らかである。従つて、本件においては私選又は国選の弁護人の有り無しにかかわらず、控訴人(又は弁護人)は、控訴裁判所に対し、その指定した適法な控訴趣意書差出最終日までに控訴趣意書を差し出さねばならぬところ、本件控訴記録によれば、被告人は差出期間と指せられた昭和三九年一一月二六日までに控訴趣意書を差し出さなかつたことは明らかであるから、一見本件控訴は右の点において手続違背があり、控訴棄却の決定を受けるも已むを得ないようである。しかしながら、被告人提出の「弁護人選任に関する通知書」によれば所論の如き趣旨の通知書が被告人に送達せられていることは明白である。しかして、かかる事情の下においては、刑事訴訟手続に特に通暁している者は格別、それの窺われない一般人そして被告人も亦右の如き通知書によつて、弁護人を私選しなければ、裁判所が弁護人を選任してくれるものと安易に考え、延いて控訴趣意書提出期間を深く念頭に止めないようになることも、裁判所としては被告人を深く咎め立てすることはできない筋合である。

しからば、被告人に対し手続上間違い易い右「弁護人選任に関する通知書」を送達したまま適切な手続を指示することなく、本件控訴を棄却した原決定は失当である。

よつて、本件異議は理由があるから、刑訴三八六条、三八五条二項、四二六条二項に則り原決定を取消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 高橋嘉平 西川力一 斎藤寿)

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